CKDを悪化させないための日常生活のポイント
- 医師や管理栄養士の指示に従い、塩分・蛋白質・リンなどの食事制限を行う
- 水分の過剰摂取や極端な制限を避ける
- 過労を避け十分な睡眠や休養をとる
- 禁煙および適正な飲酒を心掛ける
- 血圧については,きちんと処方された薬を飲み、
- 日常 生活で血圧を上げないよう注意する。
- 家庭での血圧測定の習慣化が望ましい。
CKDと生活管理・食事管理
CKD悪化防止のためには、生活習慣と食生活の改善が欠かせません。
禁煙・肥満の是正(BMI25kg/m2未満)を基盤として、ステージに応じた塩分、蛋白質、カリウム、リンなどの具体的な摂取量を確認するようにしましょう。また、自己で判断するだけでなく、医師や管理栄養士のアドバイスを受けることも重要です。
また、生活習慣に深く関与するメタボリックシンドロームを是正することも重要となります。

※1:下限は個々の患者に応じて設定しますが、過度の減塩は行いません。
※2:個々の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、医療チーム管理下での実施が望ましい。
目安は「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」に基づく。
「日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診察ガイドライン2018」より作図
BMIとは
BMI(Body Mass Index)とは、身長からみた体重の割合を表す指数。肥満の判定に使用されており、日本肥満学会では、日本人の標準値を男女ともに22kg/m2としています。
BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)2

腎臓の機能が低下すると塩分調節が上手くできなくなり、体の中に塩分が溜まって高血圧やむくみ(浮腫)を招きます。また、高血圧は腎臓への負担を増加させるため、CKDの悪化につながります。食塩の制限は、食塩そのものだけでなく調味料や加工食品などに含まれている分もカウントします。

蛋白質制限は、蛋白尿の減少や老廃物の産生を低下させ、腎臓への負担を軽減する目的で行います。しかし、蛋白質は体に不可欠な栄養素でもあり、効率良く良質な蛋白質を摂る工夫が必要です。

カリウムはほとんど全ての食品に含まれていますが、特にいも類、果物、野菜、豆類等に多く含まれており、体内において神経伝達や筋肉収縮に関与します。カリウムは主に腎臓から排泄されるため、腎臓の機能が低下すると「高カリウム血症」を引き起こします。高カリウム血症は不整脈を起こすなど、心臓に負担がかかるため、その制限は重要です。
CKDとメタボリックシンドローム
暴飲暴食、運動不足、喫煙、ストレス、不規則な生活など、現代人が抱える生活習慣の乱れが、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を蔓延させています。これは、体内の内臓脂肪の蓄積に加え複数の異常が起こっている状態で、CKDの発症にも大きく関わっています。メタボリックシンドロームに当てはまる人は、CKDのハイリスク群であることを強く意識して、今すぐに生活改善に取り組んでいきましょう。
メタボリックシンドロームの診断基準注)
腹囲(へそ周り) 男性 85cm以上
女性 90cm以上
※ 男女ともに、腹部CT検査の内臓脂肪面積が100cm2以上に相当

脂質異常
中性脂肪:150mg/dL以上 HDLコレステロール:40mg/dL未満 上記のいずれかまたは両方。
高血圧
最高(収縮期)血圧:130mmHg以上 最低(拡張期)血圧:85mmHg以上 上記のいずれかまたは両方。
高血糖
空腹時血糖値:110mg/dL以上

CKDの発症や進行は生活習慣に大きく影響しています。 まずは、以下の点に注意し、メタボリックシンドローム を予防しましょう。
食べ過ぎや不規則な食事摂取は内臓肥満の原因となります。バランスのとれた適切な食事を心がけましょう。

適度な運動を行うことにより、内臓脂肪が減少しやすくなります。その結果、血糖や脂質、血圧の改善につながります。

飲みすぎは血圧に影響を及ぼしたり、脱水を来す場合があります。酒量に注意し2〜3日に1度は休肝日を取るよう心がけましょう。

喫煙はCKD悪化のリスク要因とみなされており、実際、喫煙本数が多いほど腎機能は低下することが明らかとなっています。

できるだけ決まった時間の起床・就寝を心がけ、質の良い睡眠をとるようにしましょう。

CKDと高血圧
高血圧とCKDは互いに悪循環の関係にあり、高血圧がCKDを引き起こす原因であり、逆に、CKDが高血圧の原因ともなります。
このように腎臓と血圧は密接に結びついており、血圧の管理がCKDの悪化や心血管疾患の発症の抑制に大きな意味をもちます。
高血圧管理

- 75歳未満では、CKDステージを問わず、糖尿病および尿蛋白の有無により降圧基準を定めました。
- 蛋白尿については、軽度尿蛋白(0.15g/gCr)以上を「蛋白尿あり」と判定します。
- 75歳以上では、起立性低血圧や急性腎障害などの有害事象がなければ、140/90mmHg未満への降圧を目指します。
- 日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018, p22-24
血圧が高めの人は定期的な血圧測定を!
CKDの悪化を防ぐためには、血圧の管理が不可欠になります。自分の血圧を常に把握するために、習慣的に家庭での血圧を測定することをおすすめします。診察室での血圧が良好であっても、夜間や早朝など1日を通じた血圧の管理が重要です。朝晩2回の家庭血圧を測定して記録し、来院時に持参するようにしましょう。
高血圧はCKDの危険因子の1つというだけでなく、心筋梗塞や脳卒中の原因ともなります。血圧が高めの人は塩分を控え、バランスの良い食生活と適度な運動、禁煙などの生活習慣の改善に今すぐ取り組むようにしましょう。
生活習慣の改善項目

生活習慣の複合的な改善はより効果的です。
※重篤な腎障害を伴う患者さんは高カリウム(K)血症を来す危険性があるため、野菜・果実の積極的摂取は推奨しません。また、糖分の多い果実の過剰な摂取は、特に肥満者や糖尿病などのエネルギー制限が必要な患者では勧められません。(日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン制作委員会編:生活習慣の修正.高血圧治療ガイドライン2014, p39-44より引用・改変)
目安の値を目指すために薬を服用しましょう
生活習慣の改善と並行して、降圧薬を用い血圧を管理します。
CKDの患者さんは蛋白尿減少効果が期待できるアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)もしくは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬がよく使用されます。また病状に応じてカルシウム拮抗薬や利尿薬を使用する場合があります。処方された薬をきちんと飲み、管理目標値内にコントロールすることが重要です。
CKDと糖尿病
慢性腎不全で透析を受けている患者の数は増加の一途をたどっており、その大きな原因といわれているのが糖尿病患者の増加です。では、なぜ糖尿病がCKDを引き起こすのでしょうか?糖尿病で高血糖の状態が続くと、血液をろ過する腎臓の糸球体が厚く硬くなり、正常に老廃物を排泄することができなくなります。そうなると、体の中に老廃物が溜まって腎臓の機能はますます低下。糖尿病性腎症に陥ります。
血糖管理

※早期腎症から顕性腎症への進行を抑制するための目標値です。顕性腎症以降の目標値については、現時点では 裏付けとなる証拠が不十分なため設定されていません。
日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018, p84, p108-109
糖尿病とは?
糖尿病とはインスリンというホルモンの作用が低下したため、血液中のブトウ糖(血糖)が多くなっている状態。インスリンがすい臓から分泌されない1型糖尿病と、インスリンの分泌が少ないという遺伝的な要素に生活習慣の乱れが加わって発症した2型糖尿病があります。
高血糖の状態が10~15年続くと糖尿病性腎症に!
血糖値をコントロールせず、糖尿病を放置しておくと全身に合併症が現れる危険性があります。特に起こりやすいのが、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症で、糖尿病の三大合併症と呼ばれています。高血糖の状態が10~15年続くと糖尿病性腎症が起こるといわれており、自覚症状がなくともしっかり血糖コントロールを心がけることがCKD予防の最大の鍵となります。
発症・悪化予防の鍵は血糖値のコントロールと早期発見
CKD患者の約4割が糖尿病を合併しているといわれており、実際、糖尿病性腎症は新規透析導入の原疾患の第1位となっています。糖尿病性腎症の発症・悪化予防には、厳格な血糖コントロールが重要になります。 発症直後から事態の深刻さや合併症の危険性を理解し、上手く病気とつきあう生活習慣を確立していきましょう。また、定期的に血液検査や尿検査を受け、早期発見を心がけましょう。
CKDと脂質異常症
脂質異常症(高脂血症)とは、血中の脂質(コレステロールや中性脂肪)が多すぎる状態を指します。自覚症状は一切ありませんが、放置しておくと増えた脂質が血管の内側に溜まり、血液のめぐりも悪くなっていわゆる血液ドロドロ状態に。その結果、動脈硬化を発症し、最悪の場合、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。この脂質異常症はメタボリックシンドロームの診断基準の1つでもあり、高血圧や糖尿病、ひいてはCKDの危険性を押し上げます。
脂質管理

※1:一次予防;冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など)の発症予防のための治療)
※2:二次予防;冠動脈疾患の既往のある方の再発予防のための治療)
注)目安の値は動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版に準拠しています。
日本腎臓学会編:エビデンスにも基づくCKD診療ガイドライン2018, p49-50
CKDでは脂質異常症の治療により蛋白尿の減少と腎臓の機能低下の抑制が期待できます。また、脂質異常症はそれ自身が心血管疾患の発症の危険因子でもあるため、同時に心血管疾患の発症予防にも効果があります。脂質管理においても、まずは食事療法や運動療法などの生活習慣の改善が優先されます。食事療法では、まず総摂取エネルギーを考慮し、適正なコレステロールの摂取を心がけるようにしましょう。また、運動にはHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やすとともに中性脂肪を減らす効果があり、脂質異常症の改善には不可欠です。

管理目標値達成のために薬を服用しましょう。
食事療法や運動療法などの生活習慣の改善を一定期間続けても改善がみられない場合、薬による治療が開始されます。症状や原因にあわせてコレステロールが作られるのを抑制する薬や、コレステロールの吸収を抑える薬などが処方されます。同時に、食事療法や運動療法をしっかり続けていけば、薬を減量、中止することも可能です。CKDの悪化防止と心血管疾患の予防のために、管理目標値の達成を心がけましょう。
CKDと腎性貧血
腎臓にはホルモンを作って分泌する働きもあり、そのひとつに骨髄で赤血球の生成を促すエリスロポエチンの分泌があります。CKDではエリスロポエチン産生低下による赤血球不足から貧血を来すため、腎機能の低下にともない貧血の有無を確認する必要があります。
また、腎性貧血以外の原因で頻度が高いのは、鉄欠乏、感染(炎症)、消化管出血などであり、それらを鑑別する必要があります。
貧血管理

※重篤な心血管疾患の既往や合併のある方、あるいは医学的に必要のある方では、Hb 値12 g/dL を超える
場合にESAの減量・休薬が考慮されます。
日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018, p85, p38-39
腎性貧血とは?


腎性貧血の治療とは?
エリスロポエチン産生低下を補うために、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与が行われます。
治療により、疲れやすい・動悸・息切れ・めまいといった症状が改善され、生活の質を改善するだけでなく、腎臓および心臓の保護作用が期待できます。
早期から治療を行うことでCKDの悪化を防止できることより、CKD患者さんは定期的な血液検査を行いヘモグロビン値を確認するようにしましょう。
CKDと骨・ミネラル代謝異常
腎臓はミネラル代謝調節に大きな役割をはたしており、その異常はCKDの進行に影響されます。CKDが進行すると、骨がもろくなるといった変化だけでなく、骨ではないところに石灰化を起こすなど全身に異常を生じます。ステージ3の時期から血清リン、カルシウム、PTHの定期的検査を行い、早期より管理することが重要となります。
ミネラル代謝管理

1)日本透析医学会:慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン,透析会誌45(4):301-356,2012より作成
2)日本腎臓学会編:エビデンスにも基づくCKD診療ガイドライン2018, p41
骨・ミネラル代謝異常とは?

骨・ミネラル代謝異常の治療とは?
血清カルシウム、PTHの管理に先だって血清リンの管理が優先されます。リンの管理は血清リンが基準値を超える前から、食事療法によって始めることが望ましいといわれています。リンは蛋白質に多く含まれているため、蛋白質制限が実施されていればリン摂取量も制限されていることになりますが、蛋白質は体に不可欠な栄養素であり、必要以上の制限は逆に悪影響をおよぼします。蛋白質制限以外にリンを多く含む食品添加物をさけることで、効率よくリンを管理することができますので、加工食品やファーストフード、清涼飲料水の摂取を控えるようにしましょう。また、血清リンが基準値上限を超えた場合、リン吸着薬の服用が考慮されます。
CKDと高カリウム血症、代謝性アシドーシス
CKDでステージが進むと、腎臓の機能の低下によるカリウム(K)排泄の低下と、代謝性アシドーシス合併により、血清カリウム値は上昇します。高カリウム血症は致死的な不整脈から心停止に至ることもあり、最大限の注意が必要です。
カリウムとは?
カリウムはほとんどが細胞内に存在します。細胞外のカリウム濃度は全体としてはわずかではありますが、極めて重要な役割があり、神経伝達や筋肉収縮に関与しています。体内に取り込まれたカリウムは主に腎臓から排泄されるため、CKDでは血清カリウム値が上昇します。


日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018, p16
高カリウム血症は大変危険です!
血清カリウム値5.5mEq/L以上を高カリウム血症といいます。カリウムは細胞の興奮に関与しているため、血清カリウムの異常によりさまざまな神経症状、筋症状を呈します。なかでも血清カリウム値が7mEq/L以上では不整脈から心停止に至ることもあり大変危険です。必ず専門医へ相談してください。。
高カリウム血症の対策とは?
CKD患者では食事内容が血清カリウム値に影響をおよぼします。カリウム含有量の多い食品を控えたり、「水にさらす」「茹でこぼす」など、調理にひと工夫するようにしましょう。
生で食べる野菜は30分ほど水にさらすことで約10%のカリウム、加熱して食べる食材は茹でこぼすことで15~45%程度のカリウムを減らすことができます。
カリウム抑制薬(陽イオン交換樹脂)は、カリウムを吸着し便とともに排泄することで、血清カリウムを減少させることができますが、一方でCKDで投与される機会が多い薬物(ACE阻害薬、ARB、抗アルドステロン薬など)により、逆に高カリウム血症が誘発される場合もあります。薬剤に関しては必ず専門医に相談するようにしましょう。

代謝性アシドーシスとは?
人体では通常尿中への水素イオン(H+)排泄と呼吸による二酸化炭素(CO2)排泄により、血液中のpHは7.4程度になるよう調整されています。しかし、腎臓の機能が低下すると尿中に水素イオンが排泄できなくなり、水素イオンが蓄積して血液は酸性となります。この状態をアシドーシスといいます。GFR低下によるアシドーシスにはさまざまな要因があり、主に食事由来の酸であったり、腎障害などがあげられます。アシドーシスの状態になると、細胞はバランスをとるために水素イオンを細胞内に取り込み、代わりにカリウムを細胞外に放出します。このことが結果的に高カリウム血症を来たすことになるのです。血清カリウム値の異常がある場合、アシドーシスの確認が必要となります。